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医療リスクマネジメントとは?医療事故を未然に防ぐ5つのステップと改善事例を紹介

2026.08.25

「あの確認、大丈夫だったかな?」
「もし何か起きたら、自分のせいかもしれない…」
と忙しい現場で不安を感じたことのある看護師の方も多いのではないでしょうか?

医療現場では、薬剤の確認ミスや取り違えなど小さなミスが患者さんの命に直結することがあります。そこで重要なのが、リスクを事前に把握し組織全体で事故を防ぐ仕組みをつくる「医療リスクマネジメント」です。この記事では、その基本的な定義から現場で使える具体的な対策・事例までわかりやすく解説します。

医療リスクマネジメントとは?定義と目的

医療リスクマネジメントとは、医療現場に潜むさまざまなリスクをあらかじめ特定・評価し、事故や問題が起きる前に対策を講じる組織的な取り組みのことです。単に「ミスを減らす」ことだけを指すのではなく、リスクそのものを見える化し、組織全体で継続的に改善していくプロセス全体を指します。

医療リスクマネジメントの目的は、大きく以下の3つが挙げられます。
・患者さんの安全と安心を守るため
・医療スタッフを守るため
・医療機関の信頼性を維持するため

患者さんの安全と安心を守るため

医療事故は、患者さんとその家族に取り返しのつかない影響を与えることがあります。リスクを事前に把握することで、医療事故を防ぎ安全で質の高い医療を提供することが最大の目的です。

医療スタッフを守るため

医療従事者の労働環境と健康を守ることも、リスクマネジメントの重要な目的です。仕組みでミスを未然に防ぐことで、スタッフ自身の不安やストレスを軽減します。

医療機関の信頼性を維持するため

患者さんや地域社会からの信頼は、医療機関にとって何より大切な財産です。医療事故は風評被害や訴訟といったビジネスリスクにも直結するため、リスクマネジメントへの継続的な取り組みが医療機関の信頼性と経営の安定を支えます

医療現場で起きやすいリスクの種類と主な要因   

日本医療機能評価機構(JCQHC)の「医療事故情報収集等事業 2024年年報」によると、2024年に報告された医療事故は5,911件にのぼります。その内訳を見ると、「治療・処置」が31.8%と最も多く、次いで「療養上の世話」が31.1%、「薬剤」が8.0%、「ドレーン・チューブ」が6.9%、「検査」が5.0%、「医療機器等」が3.2%と続きます。こうしたデータからも、医療現場にはさまざまな場面でリスクが潜んでいることがわかります。

表:医療事故の分類別割合(2024年1月〜12月)

分類具体的なリスクの種類割合
治療・処置誤認、手術・処置ミス31.8%
療養上の世話転倒・転落、誤嚥31.1%
薬剤薬剤投与ミス、薬剤の取り違え8.0%
ドレーン・チューブチューブの接続ミス、自己抜去6.9%
検査検査の取り違え、検査結果の見落とし5.0%
医療機器等医療機器の故障・不具合、操作ミス3.2%

※感染は発生場面・状況によって各分類に含まれます

参考:公益財団法人日本医療機能評価機構(編).医療事故情報収集・分析・提供事業2024年1月-12月(2024年年報分).

上記のデータを踏まえて、医療現場で起きやすい6つのリスクを、主な事例・要因とともに見ていきましょう。
・誤認
・転倒・転落
・薬剤投与ミス
・院内感染 
・医療機器の故障・不具合
・ドレーン・チューブ

誤認

主な事例
・患者さんの取り違えによる誤った処置・投薬の実施
・手術部位(左右)の取り違え

要因
・多忙な業務の中での確認の省略と思い込みによる判断
・チーム内での情報共有不足

転倒・転落

主な事例
・夜間のトイレ移動中やベッドからの立ち上がり時の転倒
・離床センサーの電源入れ忘れによる転倒の発見遅れ

要因
・睡眠薬・降圧薬などによるふらつきや認知症による状況判断の低下
・離床センサーの設定ミスや確認不足

薬剤投与ミス

主な事例
・持参薬と院内処方薬の重複投与
・アレルギー情報が共有されておらず、禁忌薬剤を投与してしまうケース

要因
・多忙な現場でのダブルチェックの形骸化
・電子カルテのアレルギー情報の未登録・確認不足

院内感染

主な事例
・手指衛生の不徹底による感染拡大
・医療器具の滅菌・消毒の不備

要因
・感染対策マニュアルの遵守不足
・感染が疑われる段階での隔離対応の遅れ

医療機器の故障・不具合

主な事例
・人工呼吸器の回路接続間違いや換気確認の怠り
・シリンジポンプの注射器の交換間違いや単位の選択ミス

要因
・定期点検の未実施と操作方法の理解不足

ドレーン・チューブ

主な事例
・経鼻栄養チューブの誤挿入のX線画像確認時の見落とし
・認知症患者さんによるチューブの自己抜去と転落

要因
・スタッフのチューブ管理に関する知識・手順の理解不足
・チューブの固定方法の不統一と定期確認の不足

医療リスクマネジメントの5つのステップ   

それぞれを簡潔に見ていきましょう。

医療リスクマネジメントは、以下の5つのステップで進めるのが基本です。


【STEP1】リスクの特定

現場に潜むリスクを把握します。ヒヤリハット報告やインシデントレポートの収集・分析が中心です。

【STEP2】リスクの分析・評価

特定したリスクを、発生頻度と影響度の2軸で評価します。「どのくらい起きうるか」「起きた場合の影響はどの程度か」を具体的に検討します。

【STEP3】対策の立案

評価結果をもとに対策を決めます。個人の注意に頼るより、マニュアル整備やダブルチェック、研修など「仕組みで防ぐ対策」を優先します。

【STEP4】実行・共有

対策は現場で実行されてこそ意味があります。スタッフへ確実に共有し、研修や説明で理解を深めます。委員会や申し送りを活用し、内容は記録に残します。

【STEP5】モニタリングと再発防止

実施後は効果を定期的に確認し、必要に応じて改善します。インシデント件数の推移やスタッフの声から実効性を評価し、PDCAを回して定着を図ります。

【事例で学ぶ】リスクマネジメントの実践と改善プロセス   

ここでは、現場でのリスクマネジメントを2つの事例で確認します。

【事例①】持参薬の確認漏れによる重複投与の防止
【事例②】夜間帯の患者さんの転倒防止

【事例①】持参薬の確認漏れによる重複投与を防いだ事例

【STEP1】リスクの特定
入院時の口頭確認で「持参薬なし」と記録されていましたが、後から患者さんの手元に薬があることが判明しました。院内処方と同成分が含まれており、重複投与の直前でした。

【STEP2】リスクの分析・評価
重複投与は副作用や容態悪化につながる可能性があり、影響度が高いです。高齢患者さんでは口頭確認のみだと把握漏れが起きやすく、対策が必要だと判断しました。

【STEP3】対策の立案
持参薬チェックリストを作成し、薬剤師の鑑別フローも整備しました。また、荷物や手の届く範囲を含めた目視確認をルール化しました。

【STEP4】実行・共有
病棟で運用を開始し、スタッフ研修と委員会での共有・記録を実施しました。

【STEP5】モニタリングと再発防止
導入後の確認で関連ヒヤリハット報告数ゼロを達成しました。定期的なチェックリストの見直しも仕組み化しました。

【事例②】夜間帯の患者さんの転倒を防いだ事例

【STEP1】リスクの特定
夜間のトイレ移動中の転倒が複数発生していました。インシデントレポート分析により、「夜間」「高齢」「点滴ルート」が関係する傾向を把握しました。

【STEP2】リスクの分析・評価
転倒は骨折やADL低下につながるため影響度が高く、発生頻度もあることから、優先対応リスクと評価しました。

【STEP3】対策の立案
環境整備マニュアル(ナースコール・センサーマットの位置確認、ポータブルトイレの検討等)を作成しました。夜間巡回ルールの見直しや、点滴ルート固定方法の統一も実施しました。

【STEP4】実行・共有
委員会でマニュアルを共有し、夜勤スタッフへ配布しました。申し送りで高リスク患者さん情報を必ず共有する運用を徹底しました。

【STEP5】モニタリングと再発防止
転倒件数を継続的にモニタリングし、夜間転倒の減少を確認しました。状態変化に合わせて、マニュアルと巡回ルールを定期的に更新しています。

まとめ

医療リスクマネジメントとは、リスクの特定・評価・対策・改善のサイクルを組織全体で回し続ける取り組みです。大切なのは、個人の注意力に頼るのではなく、仕組みで防ぐという発想です。完璧な対策を一度に整える必要はありません。
まずは自分の現場にどんなリスクが潜んでいるか、一度立ち止まって考えるところからはじめてみましょう。

参考:
1)アステッキホールディングス株式会社(編).医療マネジメント認定士 公式テキスト.アステッキホールディングス株式会社.
2)医療・福祉・介護をつなぐwiseman(編). 医療リスクマネジメントとは?事故を防ぐ取り組みと対策事例を解説.2024.
3)株式会社 日本教育クリエイト(編).医療におけるリスクマネジメントとは?定義から事例までわかりやすく解説.2025.
4)あしたを元気に ソラスト(編). 【事例あり】今すぐ見直すべき医療リスクマネジメントをわかりやすく解説.2025.
5)公益財団法人日本医療機能評価機構(編).医療事故情報収集・分析・提供事業2024年1月-12月(2024年年報分).

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